クワガタの標本の作り方~基礎編~

まぁ、クワガタに限らずカブトムシの標本の作り方もコガネムシもカミキリも、要はある程度大型甲虫の標本作製なら基本的に同じなんですが。

昆虫の標本というのは、多くの場合、基本的には整形して乾燥させるだけです。昔あったような赤と緑の液体を注射する「昆虫採集セット」などは使いません。
(…ぶっちゃけ、アレはインチキです。そのうちブログネタにしようかな(笑))

およその手順は、以下の通り。

(0)殺虫・防腐処理
(1)展足
(2)乾燥
(3)マウント

(0)殺虫・防腐処理
最初から標本目的の場合、先日紹介した酢酸エチル等の薬品で殺虫処理をする場合が多いです。
標本というのは学術的な見方をすれば「情報の塊」ですので、基本的には完品に近ければ近いほど情報価値が高くなります。
チョウなんかの場合、翅(ハネ)がボロボロで模様が分からなくなってしまったら、その種の模様を調べる事が出来なくなりますし、脚が取れたクワガタはその脚の形が分かりません。
なので、標本に重点を置く場合、可哀想かもしれませんが採集してすぐに殺虫処理を行う場合が多いのです。
酢酸エチルの入手・使用方法等については先日の日記をご参照下さい(→酢酸エチル

なお、お断りしておきますが、私は別に誰にでも虫を殺すことを推奨しようというワケではありません
自身は標本主体ですので実際に殺虫を行っていますが、昆虫は生きている時の姿が一番魅力的だと思っています。
威嚇するミヤマクワガタ、葉先にとまってテリトリーを張るゼフィルス、懸命に鳴くセミ…どれも、標本ではその魅力を十分に伝え切ることは出来ません。
また、飼育が好きな人は当然ペットである虫を殺すのに大きな抵抗があるでしょうし、子供はまずは虫を捕まえて生きた状態でいじくり回して観察する所からで良いと思っています。
殺虫処理は、あくまで「標本目的であれば」という前提であることをお伝えしておきます。

…ちなみに、飼育して死んだ個体の場合、防腐処理が施されていないので腐敗が早くなりますが、もし死んですぐに気付く事ができれば、死んだ直後に毒ビンに入れておく事で、ある程度は酢酸エチルの防腐効果を期待できます
ですので、少しでも良い状態で標本を残したい場合は、殺虫をするつもりがなくても酢酸エチルは持っておくと便利です。
お試しあれ。


(1)展足
クワガタなど、主に脚の形を整えるのを「展足(てんそく)」または「展脚(てんきゃく)」と言います。
一方、チョウなどのように主に翅(ハネ)の形を整えるのを「展翅(てんし)」と言います。

展足にも色々なやり方があり、どれが正解というものでもありません。
重要なのは完成した形であり、途中のやり方など自分がやりやすいようにやれば良いのです。
とは言え、それだけでは初めての方にはあまりに不親切なので、オーソドックスなやり方をご紹介します。

甲虫の展足で最も基本的なのは、「針展足」と言われる“針で脚や大アゴを押さえて形を整える方法”です。

手順としては、まずは標本にする甲虫の体に「昆虫針」を刺します。
(※この針は、専門店で売っているものを使った方が良いです。昨日の日記参照→昆虫針

クワガタ展足針刺し(横)
クワガタ展足針刺し(後)

甲虫の場合、真ん中ではなく右上翅の上寄り(裏から見た時に、中脚と後脚の間に針が出るように)に刺すのが通例です(展足写真参照)。
前後左右から見て斜めにならないように、虫の体に垂直に刺します。
…なお、先に昆虫針を刺さず乾燥後に刺す人もいますし、どちらでも構わないのですが、虫の種類によっては乾燥後は体が破損しやすくなり、針を指すだけで背中が割れてしまうものもいるため、「先に針を刺しておく」が基本になります。

昆虫針を刺せたら、展足板(発泡スチロールの板でOK)に虫を乗せて整形していきます。
乾燥中に筋肉の収縮等によって形が変わってしまわないように、こんな感じで脚の上で針を十字に交差させ、しっかりと展足板に押さえ付けます。

クワガタ展足脚固定

関節が動いてしまう事もあるので、脚の先だけ押さえるのではなく、各節をしっかり固定しておいた方が良いです。
整える上で、「前脚の角度は…」とか「大アゴは何度の角度で開く」とか、そんなルールはありません。
基本的に、

・脚や触角などをきちんと体の下から出して見やすくしておく
・およそ左右対称にする

…という感じにしておけば、あとは自分が格好良いと思う形に整えていけば良いのです。
ただ、体の正中線(中心線)は頭から翅の先までまっすぐになるよう注意しましょう。
脚や触角を一生懸命キレイに整えても、正中線が曲がっていると格好悪い標本になってしまいます。
あとは、あまり脚を広げ過ぎると標本箱の中でスペースを食ってしまうのと、縮め過ぎて脚などが見えにくくなってしまわないようにだけしておきましょう。
ちなみに私はこんな感じにしています。

※「×印」は昆虫針を刺す位置
クワガタ展足参考画像

別にこれが万人にベストな形というワケではありませんが、参考程度にでもなれば幸いです。
この個体は大アゴの湾曲が弱いので、格好良く見せるために大アゴを少し大きめに開いています。
湾曲が強い個体の場合はもう少し開き方を弱くしています。
…とは言え、これも個人の好みの問題なので、どの角度がベストというものでもありません。
いくつも展足をしたり、他人の標本を見たりするうちに「自分の中の理想の形」というのが出来てくると思いますので、まずは作ってみることが大事です。


(2)乾燥
展足が済んだら、それぞれの虫に「いつ・どこで・誰が採った」というデータを書き添えて乾燥させます。
乾燥が不十分だとカビや腐敗の原因になりますので、しっかり乾かしましょう。

陽の当らない風通しの良い場所に置くのがオーソドックスですが、梅雨時など湿度が高いとなかなか乾燥せず腐ってしまう場合もありますので、タッパーウェアなどの密閉容器に多量の乾燥剤と一緒に入れておく方法がオススメです。
しっかりを蓋をしてしまえば、外気がいくら湿度が高かろうが問題ありません。
また、基本的には直射日光は厳禁です。
日光などの強い光は標本の色褪せの原因ですので、必ず日陰で乾燥させましょう。
(※博物館の展示標本が白っちゃけた色をしているのは、長年照明の光を浴び続けた事による褪色が原因です)

早く標本箱に入れて悦に浸りたい 眺めたいのはやまやまですが、コクワガタで1ヶ月、ミヤマやオオクワなど大型種なら1ヶ月半~2ヶ月ぐらいは乾燥させたいところです。
繰り返しますが、乾燥が不十分な場合、カビや腐敗の原因になります


(3)マウント
さて、虫がしっかり乾いたら、いよいよ標本完成間近です。
最後に標本で最も重要な「データラベル」を付けます。
いつ・どこで・誰が採ったかという3点を明記するワケですが、注意点がいくつかあります。

・ラベルには、正確なデータを書く
・年号は西暦4桁で書く
・地名は都道府県から書く

(例) 鹿児島県(奄美大島)
    宇検村 湯湾
    湯湾岳
    2008年8月16日
    井上三太郎 採集

故意に間違ったデータを書くのはもちろんご法度ですが、「これ、どこで採ったんだっけ…?」なんて場合に、適当なデータを書いてしまうと、誤りがあった場合に後世まで間違った情報が残ってしまう事になりますので、必ず正確なデータを書きます。
詳細地名(字名など)などが分からない場合は、分かる所まで(○○県××市、など)だけを書くようにします。
年号については、必ず西暦4桁で書くようにして下さい。
平成などの和歴や、「'95」などの省略はしないようにします。
これは、標本は個人の思い出だけでなく、万が一にも何かの研究に使われた際にきちんとしたデータとして機能するようにするための約束事です。
また、地名は都道府県からきちんと書きます。
いきなり「鳩ヶ谷市」とかから始まったら、近隣の人以外はそれがどこなのかサッパリ分かりませんし、まして市町村合併でなくなってしまったりすると、後から調べるのが非常に大変になってしまいます。
まして「自宅の庭」なんて書かれたら、採集者の住所を知らなきゃもはやデータとして機能しません。

データラベルとは、その標本の履歴書です。
つまり、自分だけ読めれば良いのではなく、誰でも分かるように書くことが重要なのです。


…さて小難しい話はこのくらいにして、ラベルが書けたら、それをクワガタに刺した針に一緒に刺して、標本は完成です。

クワガタ展足ラベル


…文章にするとどうしても長くなってしまいますが、実際にやってみるとそう難しくはないハズですので、ぜひチャレンジしてみて下さい。



※詳しいラベルの書き方・作り方については、以下のリンク記事をご覧下さい。
データラベルの書き方
データラベルの作り方
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No title

初めまして!

クワデリと申します。

大変参考になりました!

リンクさせていだきますのでよろしくお願いします!

ありがとうございます

>クワデリさん
初めまして。
こちらこそ、よろしくお願いします。

No title

はじめまして、クワキチと申します。

最近、標本をはじめたので
すごく勉強になります。

リンクさせていただきます。
よろしくお願いします!

ありがとうございます!

少しでもお役に立てたのでしたら、なによりです。
今後ともよろしくお願いします。

だいぶ昔の記事にコメント失礼致します。
ご教授願いたい事がありまして。。
小型昆虫の場合展脚をカット綿上などで行うことが多いと思いますがその場合乾燥後に針を刺すことになるのですがやはり記事中にもある通り乾燥後は壊れやすくなるべく丁寧に針を刺すことを心掛けてもフセツが欠けることがあります。
私の場合不器用だからなのか17mm前後の大型ルイスツノヒョウタンでもフセツを壊してしまった経験ありです。( ; ; )
小型昆虫の乾燥後の針刺しのポイントをお教えいただければ幸いです。
台紙張りも考えましたが、、あまり好きではないので。
針を滋賀針ではなくナイロンヘッドに変えた方が刺しやすく破損も少ないのでは?と考えたりもするのですがナイロンヘッドは使用した事がないので使用感がイマイチ分かりません…。
何か最善策はございませんでしょうか?
不器用ですが小型甲虫大好きなものですから…。



プロフィール

虫けら屋

Author:虫けら屋
もっぱら採集中心の虫屋さん。当初は東京で発生が確認されたが、後に埼玉県に移入、現在は千葉県での生息が確認されている。
肉眼で見て楽しめるぐらい大きなミーハー虫が好き。

Blog内の写真・文章等については、少しの引用的転用ぐらいならOK…と思っていたのですが、なんか最近フリー素材か何かと勘違いされているフシがあるので、今後は勝手に使わないでね。

※お問い合わせを頂く際はEメールにてお願い致します(採集ポイント等についてはお答えできかねますが…)。なお、採集遠征等により、お返事まで数日以上掛かる場合もございますので予めご了承下さい。
   ↓↓↓
akepon6464@yahoo.co.jp

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