沖縄ケブカコフキ探索2014~その1~

「完ッ全に早過ぎたなー…」
何度目か分からぬ溜息を漏らしながら、森から上がる。
12月19日、沖縄島に到着してから3日目の晩である。

沖縄県国頭村、いわゆる「やんばる」と呼ばれる地域。
広がる照葉樹林と、道沿いから林縁に密生するリュウキュウチクの大群落。
ここはそのやんばるにある某ダム近くの森。
4年前に大当たりしたポイントの森だが、今夜はようやく10♂を見つけた程度。
10頭というとナカナカの成果に聞こえるが、ことケブカコフキコガネに関して言えば、10♂というのは発生ピーク頃であれば森に入って数分で採れてしまう数である。それぐらい数が多い虫なのだ。
それが、1時間ほど歩き回って10♂。
まだ発生初期、である。
♂の数が少ない上に活動も鈍く、飛んでいるものより枝に静止している個体の方が多い。
一応♀も探してはみたが、♂がこの程度ではまず見つからない。

初日はダム灯火で1♂のみ、2日目は新規開拓をチャレンジしたため成果ゼロ、そして今日が3日目である。

ケブカコフキコガネ(→記事)は冬に出る面白いコガネムシで、沖縄では12月のクリスマス頃に多い。
なので普通に考えればまだ時期が早いのだが、一昨年久米島に狙いに行った際、20日から島に入ったら、発生が例年より1週間以上も早くて17日にピークが来てしまったという話を聞いてガックリした経験があったため、今回は少し早くから入るコトにした。
…が、どうやら読みが外れてしまったようで、多分この感じだと発生状況は例年通りという感じになりそうだ。

ちなみに「やんばる」は、沖縄本島北部に広がる大きな森林地帯で、ヤンバルクイナやヤンバルテナガコガネにもその名が付いている。
ただ、正式な地名ではないので、厳密に何処からがやんばるとかいう境界はない。

今夜の探索で驚いたのは、沖縄ではまだチョウセンカマキリが生きていたこと。
沖縄チョウセンカマキリ
温かい沖縄なので本土より遅くまで生き残っていて不思議はないのだが、まさかケブカコフキ探索中にカマキリを見つけるとは思わなかった。

さて、一応もう1ヶ所、目星をつけた場所があるのでそちらに向かってみる。
昼間にライトトラップを仕掛けておいたので、もし生息していれば♂が来ているハズ…とリュウキュウチクの密生する小道を進むと…
「いた!」
小さく声を上げる。…ライトに2♂が来ている。
ここは同じ国頭でもかなり北部、多分ここまで北部の個体は誰も採っていないんじゃないだろうか。
一応、ケブカコフキコガネがやんばるのどの辺りまでいるのかを確認するために仕掛けたトラップだったが、見事に当たったようだ。

…それにしても、まだ完全に発生初期だ。♂の様子からして、♀はまだほとんど発生していないだろう。
明日には別の島に渡るため、できれば本島で♀を採って勢いをつけてから行きたかったのだが…仕方ない。
ダムまで戻り電波の入る場所で郵便物の追跡を確認するが……まだ更新がない。

12月20日
元部半島にある運天港からフェリーに乗る。
フェリーいへや

……(゚∀゚ )

…………(゚∀゚ ;)

………………(゚Д゚ ;)

……………………(´Д` ;)

……伊平屋島、到着。

…………ゆ、揺れたな…。
けっこう…危なかった…

春の喜界島の時(→喜界島(&他)遠征記2014~03~)よりは時間もずっと短いし、揺れもまだ幾分マシだったかもしれないが、それでもかなりの揺れだった。
運天港を出てややもせぬうちに船がかなり揺れ出したため、早々に横になったので酔わずに済んだが、起きていれば確実にゲロッ吐きコース直行だったのは間違いない。
自身も乗り物に特別強いワケではないが、乗り物酔いしやすい人なら一撃必殺レベルの揺れであったことは間違いない。

まだ揺れているような気がする頭を叩き起こし、まずはポイントを探す。
伊平屋島は沖縄本島の北西約41kmに位置する島で、飛行場はなく船でしか渡れない小さな島だ。
ケブカコフキの記録はまだ無いが、生息していても不思議はないと思い、今回行ってみるコトにした。
1♂でも見つけられれば初記録、というワケだ。
…余談であるが、伊平屋島はコンビニもなく、そのためATMも郵便局にしかないので注意したい。

さて島に着いて色々と回ってみると、ケブカコフキ基亜種(原名亜種)(→亜種とは)の食草と思われるリュウキュウチクは何ヶ所かで見られるようだが、やんばるのような大群落は無さそうだった。
感覚としては、『いるかもしれないが、難しいかも』
伊平屋島リュウキュウチク
それと気になったのは、森で車を下りる度に鼻を突く異臭。
何処となく化学っぽい、ツンとくるニオイだ。
“何だろう…?”と思いつつも夜になり、森を探索する。

…森はシンと静まり、何の羽音もしない。
懐中電灯片手に環境の良さそうな辺りを重点的に見て回るのだが、気配がない。
目にするのは、そこかしこにいるヤスデ、ヤスデ、ヤスデ。
…ああ、この異臭はヤスデのニオイかと今更に気付く。
ヤンバルトサカヤスデ
ヤスデの仲間は身の危険を感じると青酸ガスを含む異臭を発する。
森に漂っている鼻を突く異臭は、この臭気だったようだ。

ムカデと混同されることもあるが、ヤスデの方が更に脚が多い。しかし、ムカデのように噛みついたりはしないので害は少ない。肉食のムカデと違い、ヤスデは普段は腐った落ち葉などを食べている大人しい生き物だ。
ちなみに今回多く見掛けるこのヤスデは、友人の話では「ヤンバルトサカヤスデ」という種らしい。刺激を受けた時の青酸ガスや、場所によって大量発生したりするため不快害虫とされることが多いようだ。

…気を取り直して探索を続けるものの、甲虫らしい甲虫は何も見ないまま終了。
どうもヘッドライトに迷い込む蛾の数も少ないように思う。
伊平屋島がそういう島なのか、それともヤスデの青酸ガスで虫が少ないのかは分からない。
…携帯で郵便物の追跡を確認するが、まだ更新はない。

12月21日
新たなポイントを探して島を回る。
草地の脇を抜けた時、やたらとバッタが飛び立つ場所があった。
気になって下りてみると、途端にまた数頭が飛ぶ。
赤みの強いハネが目立つ…どうやら タイワンツチイナゴ らしい。

タイワンツチイナゴ
タイワンツチイナゴは本土のツチイナゴとよく似た姿をしているが、サイズは遥かに大きく、トノサマバッタと同格かそれ以上の大きさ。更にハネも長く飛翔力に優れていて、一度飛び立てば遥か彼方まで飛んで行ってしまうコトが多い。


草地に足を踏み入れてみると、1歩に5頭という感じで次々と飛び立つ。
「すごい数だな、こりゃ…」
2~3歩歩けば、もう目の前を10数頭のタイワンツチイナゴが飛び交う。
網も持っていないが、これだけいれば素手でも捕まえられるかも…と思い、草地に踏み込む。
次々と飛び立って逃げていくが、やはりこれだけ多いとジャンプに失敗する個体もいて、草が揺れた拍子に跳ね損ねた個体なんかを捕まえて遊ぶ。
…と足元にカマキリがいるのが目に入った。
淡い色のコカマキリ…
ウスバカマキリ
……ぅん?
何かが違う。
捕まえてみて、違和感を感じた。
顔が何処となく丸っこいし、首(前胸)も太短い。
サイズは明らかにコカマキリなのだが、コカマのあのスリムさがないのだ。
なんとなく、コカマキリにハラビロカマキリの要素を少し混ぜ込んだような…かと言って、ハラビロカマキリではない。
よく見れば、カマ内側の真ん中に紋もない。
ウスバカマキリ-2
「ウスバか!」
…ようやく思い当たる。

ウスバカマキリ。
草地性の中型カマキリで、ハネが薄く見えることからウスバの名がついている。分布域の広いカマキリでフランスにも生息しており、あのファーブル昆虫記にも登場する。淡い色の体は、他のカマキリに比べて何処となく清楚な感じがする。
実はまだ自己採集したことがなく長らく憧れていたカマキリだったのだが、まさかケブカコフキを採りに来た12月下旬の沖縄で初採集することになろうとは…。

思わぬ採集に気を良くして追加を探してみるが、残念ながら2頭目は見つからず。
タイワンツチイナゴを数頭捕まえて遊びつつ、周辺のリュウキュウチクを探す。
そんなこんなで更に数ヶ所ケブカのポイントを目星を付け、夜を待つ。
思った以上のリュウキュウチク群落を見つけられたので、ちょっと期待が高まる。

…さてそろそろ飛ぶだろうという時間に合わせて森に入ると、昨夜と同じヤスデ臭が鼻を突く。
リュウキュウチク群落の周りや、その中へと入り込み、蛍光灯と懐中電灯で周囲を探す。
雰囲気は良く、今にもそのリュウキュウチクの隙間からブブブブッと羽音を響かせながら、体に合わぬ大きな触角を目一杯広げ、眼をオレンジに光らせながら飛び出してきそうなのだが……

……来ない。

必死に探し回るも、結局、昨夜と同じく羽音ひとつないまま夜は更けていった。
一応携帯で郵便物の追跡を確認するが、やはりまだ更新はない。

12月22日
島北部にある牧場である虫を狙ってみるのだが、現在牛を引っ込めてしまっているようで新鮮な糞が全く落ちていない。
カラカラの糞をひっくり返してなんとか1ペアを確保。
ガゼラエンマコガネ
ガゼラエンマコガネ。
黒系が多い日本のエンマコガネの中にあって前胸は赤、ハネは淡い黄土色と全身に色のついたエンマコガネだ。
…と言っても、実はこの虫、最初から日本にいた虫ではない。もともと大型哺乳類のいなかった伊平屋島なので放牧をしてもその糞を分解してくれるだけの糞虫がおらず、そのために海外から導入された、いわば意図した移入種なのである。
画像では分かりにくいが♂は頭に2本の角が生えており、小さいながらにナカナカ格好良い虫だ。
日本では、ここ伊平屋島でしか見られない糞虫だ。

…一旦市街地に戻る。
さて、どうしたものか。
この感じからすると、正直現時点で伊平屋島ではケブカコフキは出ていないと思う。
生息していないのか、発生時期が違うのかまでは分からないが、12月22日時点で成虫が活動していないのは間違いないだろう。
となると、いつまでもこの島にいても意味がない。
だが、実は今回、ある時点までは島にいなければいけないという制約があり…
…というところで携帯が鳴る。
「もしもし?」
「名護郵便局ですが…」
キタ!
「はい!(待ってました!)」
「お荷物、局留め郵便が名護郵便局に到着しましたのでご連絡差し上げました」
…ん?
「え、いや、伊平屋島に転送手続きをしたハズなんですが」
「あ、そうでしたか!すみません、連絡が行き違ってしまったようで…では、伊平屋島に転送でよろしいですか?」
「はい、お願いします。…えと、明日イチの船便で出れば、明日の昼には受け取れますかね?」
「はい、船が出れば大丈夫だと思います」
「分かりました」
ピッ

…実は、初日の朝、大寝坊をして慌てて家を飛び出したため重大な忘れ物をしてしまい、それを相方さんに局留め郵便で送ってもらっていたのだ。
だが、沖縄本島にいる間に受け取るハズだったソレは天候の関係で船便になり、本島にいる間には受け取れないと分かり、伊平屋島郵便局への転送手続きをした。しかし、それがいつ到着するのか分からず、毎日のように郵便追跡を確認していたのだが、東京の郵便局を通過したきり更新がなく、一体どうしたものかとヤキモキしていたのである。
だがこれでようやく受け取る目途が立った。
明日受け取り、もしギリギリでも明日の船に間に合えば…もう本島に戻ろう。

…夜、もちろん探索はしてみるものの、やはり気配はない。
森に入る、群落を車のライトで照らす、ライトトラップを設置する…と複数の方法で狙ってみるが、やはり来ない。
う~ん…伊平屋島なら絶対いると思ったんだけどなぁ…

12月23日
考えてみたら、これから本島に戻るのなら伊平屋転送を取り消して本島の郵便局で受け取れば…と思い当たったが、後の祭り。
もう船は出ている。
牧場でもう少しだけ糞を起こして、ガゼラエンマコガネを1♂だけ追加する。
…その最中、足元から飛んだバッタに違和感を感じて捕えてみた。
アカアシバッタ
クルマバッタモドキ♂のようだが全体に寸詰まりで、イボバッタとも何か違う…。一応ハネを開いてみたら、後翅に黒帯がなかった。
“なんだ、このバッタ?”と気になって一応持ち帰ってみたところ、アカアシバッタ という南西諸島限定の、しかも冬に発生するバッタであった。
以前ならバッタは採集対象になく、見つけても全部スルーかリリースだったのだが、採集の対象が広がった昨今、こういう虫も気付いたら採っておくようにしている。

さて市街地に戻りながら、「今日は12月23日か…」とぼんやり思う。
12/24がクリスマス・イブ。イブは前夜という意味なので、更にもう1日前の今日23日はイブイブと言われているらしい。
そんな話を思い出し、「今日はクリスマス・イブイブ」とかツイートでもしようかと携帯で打っていたら、イブイブ…ブイブイ?と頭の中に浮かんだ。
「ブイブイ」とは昔から言われているカナブンやコガネムシの総称で、せわしなく飛び回る羽音からそう呼ばれているらしい。
そしてもうひとつ、オーストラリア方面でもクリスマスシーズンに出てくるコガネムシがいるそうで、それらはクリスマス・ビートルと呼ばれている。
なのでケブカコフキコガネもまた日本のクリスマス・ビートルと言えるのだが、先程頭に浮かんだ「クリスマス・ブイブイ」という言葉が妙にしっくりきて、

「ああ、ケブカコフキはクリスマス・ブイブイなんだ!」

とか勝手に納得してしまった。
…ま、そのクリスマス・ブイブイが採れてないんだけどな。

…と、町に着くが、郵便局が開いてない。
あれっ?
なんで…?

…慌てて本局に電話してみると、今日は祝日だったのである。

マジかよ!?Σ(゚Д゚;)

船が到着し、頭を抱えていると、担当の方から電話。
「今日、受け取りたいですか?」
「はい、出来るなら…」
「では、お持ちしますので、待ち合わせましょう」
マジですか!
…このあたり、島の緩さの良い所だと思う。
本土の郵便局なら、「休みは休み」であって、まず絶対にこういうコトはしてくれないだろう。
…とは言え、港で待ち合わせて荷物を受け取った時点で出港10分前。
これはもう無理かな…と思いつつ、受付に行ってみると、「急げばギリギリ間に合うんじゃないか?」との言葉。
これまた良い意味での「島の緩さ」だ。
出港5分前にフェリーに飛び乗る。
ゼハー、ゼハー、ゼハー…

客室に辿り着き、一息つく頃には既に船は動き始めていた。
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クリスマスビートル

やはり、伊平屋へ行かれていたんですね。昨シーズンの喜界島といい、バイタリティー溢れる採集に楽しく読ましていただいてます。
この時期でもガゼラはとれるんですね。ヤンバルまで来ていたのでついでに行けばよかった。この情報を知っていればフェリーで出掛けたんですが。
それにしてもクリスマスブイブイは素敵なネーミングですね。僕もこれからそう呼びます。

Re: クリスマスビートル

>アマミシカマニアさん
いや、冬は行かなくて正解だったと思います。
再度放牧されて新しい糞が補給(?)されていたら話は別ですが、全ての糞がカサカサに乾いていて、本当に糞の下に蟻が営巣していたりヤスデが棲みついてソレを狙ってサシガメが棲みついていたり、正直かなりシンドかったです。
蟻の巣:ヤスデ&サシガメ:糞虫=45:54:1…て感じでした。
ガゼラ狙いに行かれるのでしたら、夏がよろしいかと…(-д-;

No title

2010年9月に伊平屋島渡航をした際、有名な松の近くでウスバカマキリ♀を採集しました。持ち帰り採卵を試みたのですが、残念ながら卵は無精卵でした。「9月の段階で♂に出会えていないということは、個体数は多くないのかもしれない」と思っていたのですが、やはりいましたね!それどころか伊平屋は多産地なのかもしれません。仰る通り、普段ウスバにお目にかかるなど、そうそうありませんから。

Re: No title

>イーフさん
ウスバカマキリ、局所的に多い場所もあるようですが、やはり基本的には薄い虫みたいですね。
伊平屋島は畑地や草地も多いので、もしかしたらウスバの生息に適しているのかもしれないですね。
ウスバカマキリを狙って伊平屋島まで行く人はほとんどいないでしょうが、離島で他産地だとしたら、面白いですよね。
プロフィール

虫けら屋

Author:虫けら屋
もっぱら採集中心の虫屋さん。当初は東京で発生が確認されたが、後に埼玉県に移入、現在は千葉県での生息が確認されている。
肉眼で見て楽しめるぐらい大きなミーハー虫が好き。

Blog内の写真・文章等については、少しの引用的転用ぐらいならOK…と思っていたのですが、なんか最近フリー素材か何かと勘違いされているフシがあるので、今後は勝手に使わないでね。

※お問い合わせを頂く際はEメールにてお願い致します(採集ポイント等についてはお答えできかねますが…)。なお、採集遠征等により、お返事まで数日以上掛かる場合もございますので予めご了承下さい。
   ↓↓↓
akepon6464@yahoo.co.jp

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