甲虫の軟化(1)

乾燥等により関節などが固くなってしまった虫を、水分などを加えて柔らかくする事を軟化(なんか)と言います。
標本を作るにあたり、展足や展翅をしようと思ったら、虫が固いままだと無理に動かせば虫体が壊れてしまいます。
そこで、一度虫の体を柔らかくし、形を整えた上で改めて乾燥させて標本にするワケです。

さて今回は、クワガタムシをはじめ甲虫類の最も基本的な軟化方法です。

数頭の採集であれば虫体が柔らかいうちにそのまま展足して標本にしてしまえば良いのですが、多数を採集した場合や、忙しくてすぐに展足していられない場合などは、一度タトウに置いて乾燥させ、都合の良い時に軟化して展足する方法があります。(※タトウについての説明は、過去記事「タトウ」をご参照下さい)
この方法なら、きちんと保管しておけば採集から何年後でも軟化して展足する事ができます。
特に標本中心の昔ながらの虫屋さん(私自身もそうですが)は、シーズン中はもっぱら採集に出ることが多く、標本を作っている暇がないため、採集した虫は基本的にタトウで乾燥させ、秋から冬の比較的時間のできる時期に軟化して展足する事が多いのです。

また、飼育していて、ついうっかり死なせたままカラカラになってしまったような甲虫も、同様の方法で軟化してキレイな標本にする事ができます。

…なお、人によって少しずつ方法は事なりますので、一例として見て頂ければと思います。


まずタッパーウェアなどにティッシュを敷き、その上に軟化したい虫を置きます。
脚が一応広がっているのであれば表裏はどちらでも構いませんが、死んでそのままで脚が丸まっているなら裏返しに置きます。

甲虫の軟化ー1

その上に、虫が浮かないようにもう一枚ティッシュを乗せ、その上からお湯を注ぎます。

甲虫の軟化-2

…ちなみに、ティ○ァール等の電気式の湯沸かしポッドがあると、少量のお湯を沸かすことができるので便利です。

甲虫の軟化-0

60℃ぐらいのお湯で数時間~半日ほど掛けて軟化するのが一般的ですが、クワガタムシなど変色の心配がないような虫で、確実に腐敗していないのであれば沸かした熱湯を注いで1時間程で一気に軟化する事もできます。
ただし、腐敗している場合には虫がバラバラになってしまったり、また虫の種類によっては熱湯で変質してしまう場合もあります(※以前、ヤマトタマムシを熱湯軟化したところ、複眼が変質してしまいました)ので、注意が必要です。

頃合いを見計らって虫を取り出し、関節を軽く動かしてみます。
この時、“ピシッ”とか“パキッ”とか香ばしい音がしたらまだタイミングが少し早いので、もうしばらくお湯に浸けておきます。

甲虫の軟化-3

少し固めでも、変な音がせずに関節が動くようであれば、ティッシュで包んで余分な水分を拭き取ります。

甲虫の軟化-4

余分な水分をしっかりと拭き取れたら、再度全身の関節を動かしてしっかりと軟化できているかの確認をします。
また、これにより全身の筋肉をほぐして展足しやすくする意味もありますので、全ての関節を一通り動かしておきます。
※なお、何十年と経過した虫の場合、どうしても“ピシッ”とか“パキッ”とかの音がする場合が多いので、十分に水分が浸透していれば、あとは少しずつ慎重に動かしていきます。

甲虫の軟化-5

なお、脚は屈伸方向だけでなく、基節が回転して赤矢印のように手前方向(背中を上にした時に、脚が下に下がる方向)にも動きますので、その方向にも動かしておきます。
前脚は前方から下がるように、中脚と後脚は後方から上がるような方向で動きます。
これをしっかりと動かしておかないと、後で展足がやりにくくなる場合もありますので、きちんと確認しておきます。

また触角や大アゴもきちんと動くことを確認しておきます。

全身の関節がしっかりと軟化できていることが確認できたら、あとは普通に展足していけばOKです。
展足の方法は以前の記事(クワガタの標本の作り方~基礎編~)にありますので、そちらをご参照下さい。


※なお、時々大アゴが非常に固く、何時間お湯に浸けても動かないといった場合があります。
その場合は、以下の手順で軟化していきます。

(1)注射器で、口器からお湯を注射する
(2)注射器で、口器から軟化剤を注射する
(3)酢酸エチルを濃い目に入れた毒ビンに数日間入れておく
(4)頭部を取り外し、後ろ側からピンセットで大アゴの筋肉を除去する

…私の経験上、比較的新鮮な虫であれば(3)でほぼ確実に軟化できます。
一日ごとに取り出して軟化状態を確認し、動くようになればそのまま展足をします。
ただし、虫の種類によっては変色を起こす場合があるので注意が必要ですし、また古い標本の場合、それでも動かない場合があるので、その際は最終手段で(4)を行います。
(※酢酸エチルの入手については、過去記事「酢酸エチル」をご参照下さい。)
(4)で筋肉を除去した場合は、頭部とそれ以外の部分で別個に展足して乾燥させ、最後に接着して完成させます。

※(4)の方法については、いずれ機会があればもう少し詳しく書きたいと思いますが、いつになるかは分かりません(爆)
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虫けら屋

Author:虫けら屋
もっぱら採集中心の虫屋さん。当初は東京で発生が確認されたが、後に埼玉県に移入、現在は千葉県での生息が確認されている。
肉眼で見て楽しめるぐらい大きなミーハー虫が好き。

Blog内の写真・文章等については、少しの引用的転用ぐらいならOK…と思っていたのですが、なんか最近フリー素材か何かと勘違いされているフシがあるので、今後は勝手に使わないでね。

※お問い合わせを頂く際はEメールにてお願い致します(採集ポイント等についてはお答えできかねますが…)。なお、採集遠征等により、お返事まで数日以上掛かる場合もございますので予めご了承下さい。
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