酢酸エチル

酢酸エチル

昆虫採集の際、採集した昆虫の殺虫処理に最もよく使われるのがこの「酢酸エチル(さくさんえちる)」です。
虫屋さん(→虫屋とは)は、「酢エチ(さくえち)」などと略して呼ぶ事が多いです。
…しかし、まだ採集を始めたばかりの方は入手方法やその使用方法など、今ひとつ分かりづらいのではないでしょうか?

化学的な話はここではしませんが、酢酸エチルは非常に揮発性の高い薬品で、その気化(蒸発)したガスを虫に吸わせる事で殺虫します
また、ガスが昆虫体内に入ることで防腐効果もあるため、標本乾燥中に虫が腐敗するのを防ぐ効果もあります。
餓死や冷凍、寿命等で死んだ虫の場合、死んだ直後から腐敗が始まり、虫によっては乾燥より腐敗が先に進んでイヤなニオイと共に虫がバラバラになってしまう事もあります。
しかし、酢酸エチルで殺虫処理した虫の場合、乾燥中に腐敗する心配は少なく、より状態の良い標本として残せるのです。

(1)入手方法
(2)使用方法
(3)保管方法
(4)応用

(1)入手方法
酢酸エチルは毒劇物に指定されており、販売には特定の免許が必要です(売る側の話)。
そのため、入手は薬局で頼んで取り寄せてもらう形になります(※常備している薬局はほとんどありません)。
価格は、写真の500mlビンで2,000円以下ですのでさほど高いものではありませんが、購入するには、成人で、かつ身分証明印鑑が必要になります。
取り寄せ後、商品引き渡しの際に「譲渡書」という簡単な書類を書いて、そこに印鑑を押して購入します。
書面内に「使用目的」とありますが、これは「昆虫採集」と書いて問題ありません。

なお、マツ●トキ■シなど大手チェーン店ではこの類は取り扱ってくれない場合が多いので、取り寄せは地元に昔からあるような調剤薬局に頼むという形になりますが、近年はそういった薬局でも取り扱いを嫌がるケースも出てきているようで、入手に少々手間取る可能性もあります。

※酢酸エチルは先述の通り毒劇物に指定されているため、気軽に転売等をお考えになりませんようにお願い致します。


(2)使用方法
先に書いた通り、酢酸エチルは気化させたガスで虫を殺します
そこで、殺虫管(→記事)と呼ばれるビンの底に脱脂綿を入れ、そこに少量の酢酸エチルを注ぎます。
綿がそこそこ湿る程度で十分で、液体が瓶の底に溜まるようでは多過ぎます。
そこに殺虫処理したい虫を入れて蓋をして殺すワケですが、虫によって死ぬまでに掛かる時間がかなり異なります。
弱い虫なら30分もせずに死んでしまいますが、ゾウムシなどでは3時間入れておいても復活する場合があります。
最低半日ぐらいは入れておくようにしましょう。
なお、酢酸エチルは僅かずつですが筋肉を劣化させる働きもありますので、クワガタムシ等を丸一日以上入れておくと、かなり関節が柔らかくなります(※筋肉劣化と言っても本当に僅かずつなので、コガネ・クワガタクラスの虫なら1週間以上入れておいても劣化で脚が取れたりする心配はないです)。
なので、24時間以上入れておいた方が、展足(整形)が楽になりますが、一方で黄色など色の鮮やかな虫の場合、変色してしまう事も多く、その辺りの加減は使いながら覚えていくしかありません。

また、酢酸エチルを含ませた綿に虫が絡むと取り出すのが面倒になりますので、綿と虫の間に仕切りを入れておくと良いです。

少量を嗅ぐ程度なら健康な人体に害はないですが、多量のガスを吸引すれば何らかの害を及ぼす可能性もありますので、ビンの蓋はしっかり閉めておきましょう。
また、揮発性・引火性が高い薬品ですので、取り扱いの際は火気厳禁です。
タバコなどを吸いながら扱うと顔面を焦がす可能性もありますので、絶対にやめましょう。


(3)保管方法
酢酸エチルは化学薬品のため、暗く涼しい場所で保管するようにして下さい。
直射日光が当たって高温になるうな場所は厳禁です。
また、揮発性が非常に高いため、蓋が緩んでいるとどんどん蒸発して量が減っていきますし、部屋の中が酢酸エチルのガスで充満してしまいますので、蓋はキッチリ閉めましょう。

日帰り程度の採集なら途中での補充は必要ありませんが、旅行など長期の採集の場合、途中で殺虫管に入れた酢酸エチルが全部気化してなくなってしまう場合がありますので、予備を持って行くようにしましょう。
なお、プラスチック等を溶かしてしまう性質があるため、プラ系の容器に入れると容器が溶けてベタベタになってしまったり、薬品をこぼすとそこの表面が溶けてしまう場合がありますのでご注意下さい(※テーブルの表面のコーティング等も溶けて光沢が無くなってザラザラになってしまう場合があります)。


(4)応用
酢酸エチルの筋肉を軟化・劣化させる働きを利用して、関節が固くなってしまった虫の軟化に使う事もできます。
乾燥して固くなった昆虫はお湯や蒸気で柔らかくして整形しますが、時に水分で軟化しても筋肉がゴムのように固くなってしまい、関節が動きにくくなってしまう個体がいます。
そういう場合、軟化剤を注射する等の方法もありますが、頑丈な甲虫であれば、虫に水分を含ませた状態で、酢酸エチルをやや多めに入れた殺虫管に入れて数日間置いておくと、関節を柔らかくする事ができます。
1日ごとに取り出して、軟化具合を確認し、柔らかくなったらそのまま整形します。

「お湯に浸けてもクワガタの大アゴが固くて開かない」などの際は、ぜひお試しあれ。


※なお、「酢酸エチル」はどんな少量でも飛行機機内に持ち込む事は許可されていません(預け荷物を含む)
ですので、飛行機で遠征に行くような場合は、大きな荷物と一緒に事前に船便で宿泊先に送付しておくのが良いでしょう。
そうする事で当日現地までの移動が身軽になりますので、一石二鳥とも言えます。


…そうそう、渋谷の宮益坂上にある薬局は、かつて向かいに志賀昆虫普及社があった名残りなのか「酢酸エチル」を常備しています。
なので、印鑑と身分証明書を持っていけば当日購入する事ができますので、お近くの方はオススメ。

青山通り薬局 → クオール薬局
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷2-10-16

※2012年1月21日に行ってみたところ、クオール薬局という名前に変わっていました。
酢酸エチル自体は変わらず常備しているようなので、お求めの際はこちらに。

クオール薬局
※坂下側から見て、スターバックス手前と覚えておけば分かるかと思います。



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参考までに

検索中よらせて頂きました。
少々気になる所があるのでコメントさせて頂きます。

>※酢酸エチルは、先述の通り販売者は特定の免許(乙種第4類危険物取扱者(通称:乙4))が必要になるため
試薬で売られているような量であれば危険物取扱者は必要ありません。
しかし、劇物に指定されている薬品なので毒劇物販売業の登録(市区町村)が必要です。(登録には資格要件が必要です。)

>「買い込んでネットオークションで売ろう」
また、業として小分けを行う事は製造業の登録(都道府県)が必要です。

>ユ○ケルやリ△ビタンDなど色付きの小瓶に入れて
毒劇物は通常飲料に使われる容器に入れる事が避けるべきです。
(毒劇物営業者には法律で義務付けられています、他の者も準用されるべき条項になっています。)

Re: 参考までに

>たけぴょんさん

ご指摘ありがとうございます。
免許云々については文章を少し書き換えさせて頂きました。
また転売については、小分けまでは想定に入れていませんでしたが、ネット等でクワガタ等を売るついでに酢エチも転売して…と考える方がいた時のためにという事で書いておりました。
ネットオークション等で販売をしている方の多くは業や個人事業主等まで感知していない場合も多いかと思い、酢酸エチルという毒劇物の販売についてのみ言及しておりました。

> 毒劇物は通常飲料に使われる容器に入れる事が避けるべきです。
> (毒劇物営業者には法律で義務付けられています、他の者も準用されるべき条項になっています。)

こちらについては完全に勉強不足でした。
一文を削除しました。

No title

修正ご苦労様です。

大変も申し訳ありません。
自分の書き方が悪く間違って解釈されてしまったようです。

>毒劇物に指定されているため、販売主は登録が必要であり、
>登録には特定の免許(乙種第4類危険物取扱者(通称:乙4))が必要

と修正していただきましたが
毒劇物の販売登録は「乙種第4類危険物取扱者」では出来ません。

毒物及び劇物取締法で

一  薬剤師
二  厚生労働省令で定める学校で、応用化学に関する学課を修了した者
三  都道府県知事が行う毒物劇物取扱者試験に合格した者

である事が必要です。

サクエチに関して

虫けら屋様

埼玉インセクトフェアでお話を伺わせていただいたモモンガといいます。
いつも楽しくHPを拝見させていただいております。
丹沢でのアカアシ採集、できるものなら是非ともご一緒させていただきたいと思いました。
さて、表題の件ですが、自分も化学者の端くれなので、いくつか指摘させていただきます。
まず、化学薬品は冷暗所に保管するに越したことはないですが、サクエチは光では分解しません。
プラスチックを溶かすので、これらの物品には付着させない方が
よいかと思います。

私はサクエチで虫を〆る時、直接体内に注射器で入れています。
この方法だと、注射してすぐに虫を〆ることができます。
しかも、カブトやミヤマでも0.1 mlも注射すれば、すぐに死にます。

No title

>たけぴょんさん
御苦労様…とまぁ、それはさておき、
私自身は薬剤師等の話まで広がると情報を抱え切れなくなってしまう(キャパが小さい…)ので、その辺りの件はガバッと削除してしまいました…。
昆虫関係で情報を欲している人のために「使い方」「危険性」「入手」等を広く伝える、というのが第一目的のため、ご了承下さい(^^;
誤った情報を伝えてしまうのは本意ではありませんので、ご指摘ありがとうございました。


>モモンガさん
光分解については完全に間違って覚えておりました。
何かで読んで、それをそのまま鵜呑みにしてしまっておりました…お恥ずかしい。

プラスチックについて、これは完全に記載を失念してました。
私自身も、プラは溶けるからユンケル瓶に入れていたというのに…(それも良くないとの事ですが)。

注射器については、一般の方の入手が難しく、方法を紹介しても「注射器はどこで手に入りますか?」という質問が来ると公の場で答えられないため、「使用するのが基本」な場合以外はあまり紹介しないようにしています。
しかもプラ製のシリンジだと溶けてピストンがしにくくなったりするし…

アカアシのポイントは、個体数が多いというより、自分の他に採集者がほぼ誰も来ないんです。
なので、自分が採りに行くまで新たに来た個体もどんどん増え続けて、蹴ると一気にバラバラバラッ!という具合です。
あの場所はヤナギは自体が少ないので、なおさら一本の木に集中するのかな、というのもあります。
プロフィール

虫けら屋

Author:虫けら屋
もっぱら採集中心の虫屋さん。当初は東京で発生が確認されたが、後に埼玉県に移入、現在は千葉県での生息が確認されている。
肉眼で見て楽しめるぐらい大きなミーハー虫が好き。

Blog内の写真・文章等については、少しの引用的転用ぐらいならOK…と思っていたのですが、なんか最近フリー素材か何かと勘違いされているフシがあるので、今後は勝手に使わないでね。

※お問い合わせを頂く際はEメールにてお願い致します(採集ポイント等についてはお答えできかねますが…)。なお、採集遠征等により、お返事まで数日以上掛かる場合もございますので予めご了承下さい。
   ↓↓↓
akepon6464@yahoo.co.jp

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