奄美大島採集記(4)

<2月21日>
金~月まで4日間みっちり付き合ってくれた友人は有給を使い果たし、今日からは普通に仕事(…と言っても、夜にはまた合流するのだが)。

さて今日はどうしようかと思案し、とりあえず仕掛けたトラップを見て回るが、ケブカは入っていない。
今までリュウキュウチクのある場所を重点的に見て回ってきたが、全くカスりもしない。
となれば、今日は過去に記録のある場所を叩いてみよう。
…の前に、少しぐらい他の虫も狙おうかとホームセンターでシャベルとザルを買い、某峠へと車を走らせる。

道の脇に車を停めて、ちょいと森に入る。
…外から見えないぐらいの距離でいいかな?
シャベルでザルが埋まるぐらいの穴を掘り、そこにザルを埋める。

うむ、準備完了!
あとはザルを埋めた上に***して…と。

さて、これでOK。
再び車に乗り込み、本命狙いの準備に向かう。
過去にケブカが多数が採れているポイントに狙いを絞り、レンタカーで突っ込んでみる。

…正直言って、人に勧められるような道ではない。
未舗装なのは当然ながら、ガッタガタで場所によっては雨によって深く抉れ、いつスタックしてもおかしくないような道だ。
二輪駆動のレンタカーで入るなど、普通に考えたら正気の沙汰ではない。

でも入るんだけど。

一通り走り、やはりリュウキュウチクなど全く見られない事を確認する。
さてどうしたものかと思案するが、詳しいピンポイントまでは分からないので、とりあえず夜に入ってみるしかない。
友人Y氏は夜から合流するので、その前に作戦を練っておく。

この道は、この季節なら夜は絶対に人は入ってこない。
ならば、ライトトラップ&ルッキング。
車のエンジンをかけたままヘッドライト全開で車を置いて、自分たちは林道を歩いて探してみるという方法でいこう。

明るいうちに場所の目星を付け、夜を待つ。
友人と合流し、友人の車は入り口に駐め、こちらの車一台で林道奥へと入る。

“ざりざり”“キーキー”と枝葉が車の側面を擦る音が聴こえるが、キニシナイ。
たまに車の下でガツンッ!とかヤヴァイ音がするが、キニシナイ。
『まぁ自走出来れば2万円だ』と(悪い方向に)開き直って車を進める。

やがて狙い定めた場所まで辿り着き、そこで車を停めて身支度を整える。
人も来ないから当然車上荒らしも来ないだろうという事で、エンジンを掛けたままライトをハイビームにして車を置き、更に先へと向かって歩き出す。

今日は昨夜までに比べたらずいぶん暖かい。
この気温なら、沖縄なら確実に飛んでいるはずだ。

奥まで行って引き返し、戻りもゆっくりと歩いていると、左足元の藪に何やらニョロリとしたものが覗いている。

「ハブだ!」
…それも本ハブである。
暖かくなった途端に活動し始めたか。

捕まえてやろうとしたのだが、藪の中ではナカナカ手が出せず、結局逃げられてしまう。
「この時期でもガチで動いてるんだなぁ…」
なんて言いながらしばらく歩いていたら、またニョロリ。

ハブ率高ぇな、オイ。

だが、これも藪から体の一部が覗いている状態で、上手く引きずり出せず逃げられてしまう。

…と、友人が急に立ち止まる。
どうしたのかと聞いてみると、足元の藪で「今、羽音が聴こえた」と。
一瞬だったらしいのだが、かなりコガネっぽい羽音だった、と。

ケブカならば飛翔性も高く走光性も高いので、ライトを当てていればまた飛ぶ可能性が高い。
2人がかりで藪にライトを当ててみるが、しかし何の音もしない。
藪は藪のまま、静まっている。

ならばと2人がかりで草をかき分けて探すが、しかし姿はない。
5~10分程探したもののやはり見つからないので、「聴き間違いか…?」という事で先へと進む。

やがて入口近くまで戻ってくるが、結局ケブカは現れず。
友人は明日も仕事があるので、ここで別れて帰宅へ。
自分は、奥の車に向かって再び来た道を戻る。

夜の林道を一人で歩く、という時点で普通の人から考えたら狂気の沙汰だろうな…と思う。
だが、良くも悪くもこのぐらいでは動じなくなってしまった。

と、戻り道を歩きだしてややもしないうちに、道の上でビロ~ンと…
「またいたッ!」
3頭目である。
なんというハブ遭遇率の高さだろう。
夏に何度となく奄美に来たが、こんな遭遇率の高さは初めてだ

…と思ったら、後に聞いた話で、奄美在住でハブ見つけると喜んで捕まえるようなNさんが「2月に一晩3頭なんて聞いた事ない」と。
どうやら本気で異様な遭遇率らしい。

ハブはちょうど道を横断中で、今度は藪などの遮蔽物もない。

よし、捕るっ!


…はい、普通に考えたら思考回路オカシイですね。
でもキニシナイ。

すぐに手近な枝を拾い上げ、こちらの殺気にに気付いて背をS字に曲げて警戒するハブの頭をガッシと押さえ付け、後ろから首根っこを掴む。
間違っても頭を振って手に咬み付かれたりしないよう、頭のすぐ後ろで首をガッチリと押さえる。
だが、それでも口を開け、恐ろしく長いその毒牙を見せつけてくる。

ハブの顔

薄い肉鞘に包まれているが、緩く弧を描いているのがハブの牙。
相手に刺さる時にはこの鞘が剥けて牙だけが刺さるようになっている。

首を持って持ち上げてみると、だいたい体長は自分の胸高ぐらい…という事は、およそ1.2~1.3m程か。
ハブとしてはごく普通に見られるレギュラーサイズだが、そのサイズで既に牙が2cmはあり、この長さなら長靴など簡単に貫通してしまうだろう。
相変わらずシャレにならない生き物である。
だが、だからこそ奄美の森の守り神たり得るのであり、彼らがいなければ奄美の森はあっと言う間に開発されてしまっただろう。

とりあえず写真を撮りたいが、カメラは車に置いたままだ。
左手にハブ、右手に懐中電灯を持って再びテクテクと歩きだす。

普通、アオダイショウなんかを捕まえると腹筋の力であっと言う間に腕に巻き付いて締めつけてくるのだが、ハブは腹筋が弱く、頭を持って持ち上げると胴体はダラ~ンと垂れ下がったままになってしまう。
これは、無毒のヘビは獲物を仕留めるのに締め殺す必要があるので筋肉が発達するのに対し、毒ヘビは毒で獲物を仕留めるため体の筋肉があまり発達していないのだとか。
なので、毒ヘビは尾の先を持って持ち上げられてしまうと、腹筋で反り返って咬み付いたりは出来ないらしい。
…さすがに怖いからやらないけど。


ハブを持ったまま10分程歩いただろうか。
唐突に、ブブブブブッという明らかな羽音が、右側の森から聴こえた。

えっ!?

慌ててそちらにライトを向けると、オレンジ色に光る眼が林床スレスレを飛んでおり、それがあっと言う間に自分の胸元の蛍光灯に突撃してきた。
確信を持って慌てて捕まえると、案の定、間違いようのない立派な触角。

ケブカだ!
奄美ケブカ顔

慌てていると、間を置かず2頭目、3頭目が飛来する。

うわわわわっ!
こ、これはイカン!早く採集装備を整えて来ないとっ!
とりあえずその3♂は右手で何とか押さえ込み、「右手にケブカ3♂と懐中電灯・左手に本ハブ」という状態で車へ急ぐ。
車まで戻り、急ぎながらもハブの記念撮影はしっかりとして(爆)、
ハブ持ち
急いで車に乗り込み、先程の場所まで戻ると、車を停めた途端にそのヘッドライトにもケブカ♂が飛来する。

急げ急げっ!

装備を整えて、改めてポイントの前に立つ。
すると、途端に数頭の♂が蛍光灯に飛来する。
この個体数……明らかに、この森の中が発生源だ。

ポイントを観察すると、目の前は1m程の低い崖で、その上はワリと急な登り斜面。
そのうえ細い灌木が生い茂り、林内に入ったら立って歩く事は出来そうにない。
つまり、ポイントに入るということはすなわち、

一晩(というか正味2時間ぐらい)で本ハブ3頭に出遭うような場所のに、1人で、ハブに遭遇しても緊急対処しづらい中腰姿勢で突入

…とかいうキチ○イじみた行為をするという事になる。
流石に…ちょっと怖い…
だが、そうしている間にも林内からケブカ♂たちが次々と飛来してくる。
既に10頭ぐらいは採れているだろう。

ケブカと恐怖を天秤に掛け…
「そんなコトしてる暇があったらさっさと入らんかいっ」っていう声がした。



で、入った。



灌木を掴んで体を引き上げ、よっこいしょと森に入る。
途端にあちこちから聴こえてくる羽音。
しゃがんだ姿勢のままそれらを摘まみながら、周囲に目を凝らす。
…そう、これだけ♂がいるなら、“彼女”も必ず近くにいるはずなのだ。

そうして探すこと20分程。
枯れた、細い灌木の先端に止まる個体に気付いた。
「もしや!?」
灌木を回り込み、じっくりとその個体を見る。
既に予感はあったが、休んでいる♂という可能性もある。
止まって休んでいる♂の場合、触角を畳んでいることもあるので、じっくりと見る。
眼を凝らしてみる。
…だが、腹面と灌木の隙間にも、巨大な触角は見えない。

ほぼ確実に、だ。
と同時に『カメラ!』と思い浮かんだのだが、生憎デジカメは車の中だ。
オキマルのような路上ならいざ知らず、また昼間の森ならいざ知らず、夜のこの森の中では、一度この場を離れてしまったら再び見つけるのは至難の業。

撮影は諦めて捕まえる。
捕まえて、頭部をよく見る。

奄美ケブカ♀
♀だ。

「よっしゃ!」
小さくガッツポーズ。

その個体をケースに入れ、再び追加個体を探す。
活発に活動している♂を摘まみながら♀を探すが、見つからない。

と、先程まで一緒だった友人Y氏からメールが入る。
『戻る最中にまたハブ1匹見たから無茶しないよーにw』

えーと…

もう無茶しちゃってますが、何か。

とりあえず、友人にはすぐにメールでハブを採ったこととケブカが採れた事を伝える。
最初のメールを送って……ふと思った。

…あれ?
ここって、さっき友人が一瞬羽音聴いた場所のすぐ近くじゃね?


思い当たってみれば間違いない。
先程、友人と2人で歩いた際に、友人が羽音を聴いたのはこの10m先ぐらいだ。

…となると、あの羽音というのは本当にケブカの羽音だった可能性が非常に高い。
友人は、今期の♂の第一発見者になる寸前だったのである。
そんなメールのやりとりをして、再び探索開始。

♂はポツポツと飛んでいるものの、沖縄に比べるとやはり個体数も少ない。
♀もそれに比して少ないとなると、探すのはかなり大変だ。
…そうこうするうち、次第に♂の羽音が減ってくる。
どうにも活動時間のピークを過ぎてしまったらしい。
それでもしばらく探してみたが、やがて林内で羽音がちっとも聴こえなくなってしまったため、斜面を降りて1mの崖を飛び降りて、道に戻る。
少し周囲を歩いてみたが、1~2頭の♂が蛍光灯に飛来したぐらいで、その後は見られなくなってしまったので、車に戻った。


…さて、この大発見をどうしたものだろう。
いきなり報告に上げても良いのだが、それでもし他の採集者も来てしまったりするとポイントがカチ合ってしまう。
それは嬉しくない。
ならば、今少し発表は考えておこう。

今夜の車中泊場所まで車を走らせながら、そんな事を考えていた。










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※以下リンクに目次ページがあります。
日を追って順に読んで頂く方は、どうぞ。
奄美大島採集記2012初春~目次~
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こんばんわ!

こりゃ~まさに冒険!ですね!
出張先へ向かう新幹線でのめり込んでいきました(笑)

ハブの歯は凄いんですね・・・
こわっ!
ケブカとハブを両手なんて超がつくリアリティですね!
とにもかくにも楽しめました!!!!が、、、
レンタカー出入り禁止にならない程度に・・・

今回も楽しい採集記ありがとうございまいした!!

おはようございます

>まー坊さん
そうですね、レンタカー屋のブラックリストには載らないように気を付けます(笑)

ハブ持ちでケブカが飛んできた時には、ホントにどうしようかと思いました。
「まさか、なんでこのタイミングで!?」って感じで。

こんばんわ!

臨場感溢れる
ナイス採集記でーす!
雑誌の採集記のネタは
大丈夫ですかぁ(笑)

Re: こんばんわ!

>クワデリさん
う~ん…大丈夫ですかねぇ(^^;

…まぁ、雑誌での採集記では、ブログのようなネタ表現や文字サイズの変更は難しいでしょうから、なんとかテイストを変えて書けるかな、と……たぶんきっとおそらく。

初めまして。

初めまして、仙台市のひさ@くわがたと申します。
クワデリさんの紹介記事を見て拝見させて頂きました。

沖縄のクワ友さんが、沖縄本島で採集されている記事を見ていたので、沖縄での存在は知っていましたが、奄美大島に居るのも♀が貴重なのも初めて知りました。

この度はおめでとうございます。

ようこそ~

>ひさ@くわがたさん
はじめまして&ありがとうございます。

ケブカコフキコガネは、コガネムシ好き以外にはあまり知られていないマイナー虫ですが、冬に発生したり、♂は触角が巨大だったり、♀が珍品だったりと非常に面白いコガネムシです。
…で、奄美大島産では今回が♀の初記録(世界的に見て、現存する奄美大島産ケブカ♀の標本は私の持つ1頭だけ)なワケです(^^;

ちなみに、沖縄本島・奄美大島の他に、徳之島・喜界島・久米島で記録がありますが、いずれも♀はまだ見つかっておらず、現存する標本は♂のみです。
つまり、沖縄本島やんばる地域産以外の♀標本を持っているのは、多分私だけ(チョット自慢(笑))かと。

また、他の周辺離島にも分布している可能性があり、まだまだ分からない事だらけの虫です。
私自身は、次のシーズンに沖縄本島中南部産の♀を採ることができたら個人的にはケブカ終了かな…と思っていたのですが、何やら思わぬ方向に話が大きくなりつつあり、この先まだ分からなくなってきました。

私も一番好きなのはクワガタムシなのですが、今ケブカはちょっと大きなマイブームになっています。
プロフィール

虫けら屋

Author:虫けら屋
もっぱら採集中心の虫屋さん。当初は東京で発生が確認されたが、後に埼玉県に移入、現在は千葉県での生息が確認されている。
肉眼で見て楽しめるぐらい大きなミーハー虫が好き。

Blog内の写真・文章等については、少しの引用的転用ぐらいならOK…と思っていたのですが、なんか最近フリー素材か何かと勘違いされているフシがあるので、今後は勝手に使わないでね。

※お問い合わせを頂く際はEメールにてお願い致します(採集ポイント等についてはお答えできかねますが…)。なお、採集遠征等により、お返事まで数日以上掛かる場合もございますので予めご了承下さい。
   ↓↓↓
akepon6464@yahoo.co.jp

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